タイとカンボジアの国境紛争は、長年にわたる領有権争いやナショナリズムの対立が複雑に絡み合った問題です。とくに、プレア・ビヒア寺院(プレアヴィヒア寺院)をめぐる争いは、国際的にも注目を集める事案となっています。
この記事では、紛争の背景や主な原因、最近の動向について、わかりやすくまとめました。
プレア・ビヒア寺院とは?歴史的な背景と地理的位置

プレア・ビヒア寺院は、カンボジア北部のダンレック山地の尾根に位置するヒンドゥー教の古代遺跡で、12世紀ごろに建立されたとされています。
寺院の立地は、カンボジアとタイの国境付近にあり、両国が長年にわたってその帰属を主張してきました。
紛争の主な原因とは?

1. 植民地時代の国境線の曖昧さ
19世紀末、カンボジアはフランス領インドシナに編入され、フランス側が定めた国境線と、タイ側(当時シャム)が主張する分水嶺に基づく国境線が一致せず、「国境未画定地帯」が発生しました。
この曖昧な国境線が、長期にわたる対立の温床となっています。
2. プレア・ビヒア寺院の領有権争い
1962年、**国際司法裁判所(ICJ)**はプレア・ビヒア寺院そのものの所有権をカンボジアに帰属すると裁定しました。しかし、寺院周辺の土地の帰属は曖昧なままで、この不透明さが火種となり続けています。
3. 世界遺産登録とナショナリズムの衝突
2008年、カンボジアがプレア・ビヒア寺院をユネスコ世界遺産に単独申請・登録したことにより、タイ側が猛反発。
「寺院だけでなく周辺の領土も奪われるのでは?」との不安が国内で拡大し、ナショナリズムが急速に高まりました。これにより国境付近での軍事衝突が頻発する事態に発展しました。
近年の主な衝突と緊張の高まり
2025年の衝突と直接的なきっかけ

2025年5月には、カンボジア側が国境付近に塹壕を構築したことを受けて、タイ側が「挑発行為」と非難。現地では兵士同士の小競り合いや発砲事件が複数発生し、死者も出ました。
両国の国内政治が紛争を煽る構図
この問題は単なる領土争いにとどまらず、国内政治の思惑が背景にあると指摘されています。
- タイでは、政権が支持率低下を回避するために強硬姿勢を取るケースが見られます。
- カンボジアでも、選挙を控えた時期に「譲歩できない姿勢」を前面に出すことで、国民の支持を集めようとする動きがあります。
専門家が指摘するタイとカンボジアの紛争の根本原因
以下に、専門家が挙げる主な要因をまとめました。
1. 国境未画定地帯と領有権問題
- 歴史的に定まっていない国境線
- プレア・ビヒア寺院周辺の所有権の食い違い
2. ナショナリズムと世論の圧力
- 領土に関する問題は感情的対立を呼びやすく、世論や市民団体の声が政権の態度を硬化させる傾向があります。
3. 現場レベルの偶発的な衝突
- 軍の配置、塹壕建設、地雷設置などが、相手側の「挑発」と捉えられやすい
- 小規模な争いが本格的な武力衝突へと発展するケースも
4. 外交的対話の行き詰まり
- タイは二国間協議を優先する一方、カンボジアは**国際司法裁判所(ICJ)**への訴えを重視するなど、外交方針にズレがあります。
国際司法裁判所(ICJ)の役割と限界
ICJは1962年や2011年・2013年に両国に対して一時的な撤退を命じるなどの判断を下してきましたが、根本的な領土問題には介入しきれていないのが実情です。
2025年にも、カンボジアが再びICJに提訴する動きが報じられています。
まとめ:解決の糸口はどこに?
タイとカンボジアの国境紛争は、以下の要因が絡み合い、解決が非常に難しい構造になっています。
- 国境未画定地帯の存在
- 歴史的遺産の領有権争い
- ナショナリズムの高まり
- 国内政治の思惑
- 現地での偶発的衝突
- 外交的対話の行き詰まり
プレア・ビヒア寺院という一つの遺跡が、両国の誇りと主権を象徴する存在となっており、問題の根は深く、今後も注視が必要です。
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